シンポジウム

シンポジウム「高齢社会における女性の地位と役割」(2006.8.29)

森岡茂夫 ILC日本理事長

シンポジウム「高齢社会における女性の地位と役割」<日本語訳>
日本の「高齢社会における女性の地位と役割」に就いてお話をする機会を与えていただき、たいへん光栄に存じます。

さて、日本は第二次世界大戦の敗戦を境に政治、経済、産業、社会、教育、農業などのそれぞれの分野で大きな変化がありました。そして女性の地位や役割も劇的に変化いたしました。 戦後は自由・民主主義のもとで男女共学になり、女性の社会進出も進みました。とりわけ1986年に「男女雇用機会均等法」が施行され、社会進出がさらに促進されています。 他方、未婚率の上昇、晩婚化、少子化にも拍車がかかっています。結婚や出産・育児を望まない女性たちの台頭が、新たな課題となっています。

  女性 男性
平均寿命 86歳 79歳
100歳以上人口と構成比 21,775人(85.2%) 3,779人(14.8%)

WHOデータによると日本人の平均寿命はWHO加盟国192ヵ国中、2006年で男性が79歳、女性が86歳でともに世界一です。 性別で7歳ほどの開きがあり女性の方が長寿で世界的な傾向です。100歳以上の長寿の方は2005年データで約2万5千人ですがこのうち85%は女性です。

  2005年(※1) 2050年予測(※2)
高齢化率 20.04% 35.7%
生産年齢人口(15-64歳) 84,590千人 53,889千人

(※1:総務省統計局2005年、※2:国立社会保障・人口問題研究所(2002年推計))

また、高齢化率は現在ほぼ20%ですが2050年には35%を超えると予想されています。
一方、特殊出生率は1.25まで下がっていますので、労働生産人口の減少は避けられません。2005年には84,590千人でしたが、2050年には53,889千人まで35%も減っていくと予想されています。政府の少子化対策と若年層の意識の変化により出生率は徐々に回復するよう願っています。
したがって労働生産人口の減少に直面している日本社会にとって重要なことは男性も女性も年齢に制限なく就労や社会参加出来る社会にして行く事だと思われます。

職業 女性の比率
国会議員(衆議院) 7.1%(2003年)
国会議員(参議院) 14.6%(2003年)
裁判官 13.7%(2005年)
弁護士 12.5%(2005年)
検察官 9.5%(2005年)
管理的職業従事者 9.7%(2003年)

女性の社会参加は進んできましたが、行政・立法・司法あるいは企業の経営者や管理職の数では、まだまだ男性とは比べ物にならない数字です。
しかし、市長や知事など地方自治体のトップとして、特色ある政策を打ち出した女性が活躍する機会が増えています。
また、民間企業でも新しい発想での事業展開を行う時などに、女性を管理職やCEOなどに抜擢することが行われることもあります。

女性雇用者の推移 1975年 1975年
女性雇用者数 1,167万人 2,229万人
雇用者総数に占める女性の割合 32.0% 41.3%

また、女性の就労状況ですが、雇用者および雇用者総数に占める女性の割合はともに大きく伸びています。

<女性の年齢階級別労働力率>

女性の年齢階級別労働力率

資料出所:総務省統計局「労働力調査」(平成7・17年)

ただ、問題なのは雇用者数の年齢別状態では、子育て期の20代後半から30代になると仕事を中断する傾向がみられることです。
政府は働く女性が安心して子どもを生み、育てられるように2003年に次世代育成支援対策推進法を成立させ、雇用主に対し出産と育児を積極的に支援するようにその計画を行政に提出を義務付けることに致しました。

  女性 男性
非正規雇用者比率
(パート、アルバイト、派遣、契約等の比率)
・・・全年齢、2006年
50.6% 50.6%

労働力調査(総務省統計局2006年)

さらに女性の経済生活にとって、大きな問題は、女性の場合はパート・アルバイト・派遣社員・契約社員などの非正規雇用者である割合が高いことです。
男性の非正規社員比率は16.7%ですが、女性の場合は50.6%で、半分の人は非正規雇用者です。又非正規雇用者の平均年収は正規雇用者の1/2以下と云われています。

性、年齢階級別賃金(2005年) 単位:US$
年齢 女性 男性に対する比率 男性
18~19 1,400 92.2% 92.2%
20~24 1,680 93.8% 1,790
25~29 1,910 88.0% 2,180
30~34 2,090 80.2% 2,610
35~39 2,240 71.6% 3,120
40~44 2,230 62.5% 3,570
45~49 2,190 57.8% 3,780
50~54 2,090 55.1% 3,800
55~59 2,050 56.4% 3,640
60~64 1,790 67.4% 2,650
2,020 65.9% 3,070
平均年齢(歳) 38.7   41.6
勤続年数(年) 8.7   13.4

(注)年齢階級区分の計の数値には、上掲の年齢階級のほか、18歳未満及び65歳以上の者を含む。
以下同じ。
(厚生労働省2005年)

従って、女性の賃金水準は男性よりもまだかなり低いのが実情です。
これは、高度な専門的知識を生かした職業に女性の割合が低いこと、結婚・出産を機にいったん仕事を辞める場合が多いことなどによります。
さらに、まだ男女の賃金格差が存在すること、雇用が非正規なものである場合が多いことなども挙げられます。

健康フロンティア計画
10年間(2005‐2014)で健康寿命を2年程度のばす
病気と死亡を減らす生活習慣病対策 が ん・・・5年生存率を20%改善
心疾患・・・死亡率を25%改善
脳卒中・・・死亡率を25%改善
糖尿病・・・発生率を20% 改善
介護が必要になることを防ぐ介護予防 現在「7人に1人」を「10人に1人」へ

(厚生労働省)

平均寿命も重要ですが、さらに重要なのは健康寿命です。
2002年のデータによると男性72.3歳、女性77.7歳で、これも世界一です。

現在政府主導で「健康フロンティア計画」を総合的に進めています。これは、2005年から2014年の10年間に健康寿命を2年程度延ばそうという計画です。
生活習慣病対策によって癌の5年生存率を20%改善、心疾患の死亡率を25%改善、脳卒中の死亡率を25%改善、糖尿病発生率を20%改善しようというものです。
また同時に、現在長期介護が必要な高齢者は7人に1人ですが、これを10人に1人にしていくために「介護予防プログラム」を用意していくという計画も含まれています。

2000年からスタートした介護保険は2005年に大きな制度改正が行われました。
改正によって運動習慣をつけるためのトレーニング、栄養バランスの取れた食生活を送るための食習慣指導などの「介護予防サービス」の充実が図られました。

介護に携わっている人 女性 男性
介護保険サービス受給者 71.3% 28.7%
介護サービス事業所従業員 81.6% 15.6% 無回答2.8%
家族介護者 74.9% 25.1%

介護給付費実態調査(厚生労働省2004年)
事業所における介護労働実態調査(介護労働安定センター2004年)
国民生活基礎調査(厚生労働省2004年)

また介護保険は、日本国民の40歳以上が全員加入している皆保険制度で、サービス受給対象者は主に65歳以上の高齢者です。介護保険制度の主役は女性です。即ちサービスの受給者は、女性が約71%、男性は約29%です。
介護サービス事業所従事者の割合は男性が約16%、女性が82%、無回答約2%となっています。

主な疾病の総患者数 総数
結核 47 20 27
ウイルス肝炎 412 201 211
悪性新生物 1,280 605 605
糖尿病 2,284 1,076 1,208
血管性及び詳細不明の痴呆 138 100 38
精神分裂病、分裂病型障害及び妄想性障害 734 375 360
パーキンソン病 141 81 59
アルツハイマー病 89 61 28
白内障 1,292 908 384
中耳炎 203 106 98
高血圧性疾患 6,985 4,202 4,202
虚血性心疾患 911 433 481
脳血管疾患 1,374 1,374 671
喘息 1,069 511 558
歯及び歯の支持組織の疾患 4, 870 2,803 2,068
胃潰瘍及び十二指腸潰瘍 782 330 452
肝疾患 350 150 200
アトピー性皮膚炎 279 126 153
慢性関節リウマチ 321 258 63
前立腺肥大(症) 398 - 398

患者調査の概況(厚生労働省2002年)

これは、主な疾病の男女別患者数を表しています。

1世帯あたりの世帯人員数
1970年 3.41人
1985年 3.14人
2000年 2.67人

国勢調査報告(総務省統計局)

日本の家庭の構成の変化について述べますと、急速に高齢者と子どもを含めた世帯の構成員の数が減っています。
核家族化が進行し、また単独世帯が増えています。1970年には1世帯あたりの人数は3.41人でしたが、2000年には2.67人まで減っています。

高齢者世帯数の推移 単位:千
  単独世帯
(女性)
単独世帯
(男性)
夫婦のみの
世帯
(参考)
全世帯数
1986年 1,035 246 1,001 37,544
2005年 3,059 1,010 4,071 47,043

国民生活基礎調査(厚生労働省)

高齢者の世帯では、夫婦のみの世帯や単独世帯が大きく増え、特に女性の単独世帯が増え、1986年に1,035千であったものが2005年には3,059千世帯にまでなっています。

高齢者世帯の年間所得の分布 単位:US$
単独女性世帯 単独男性世帯 単独世帯、2人以上世帯計
16,330 23,090 18,190

高齢社会白書(厚生労働省2004年)

高齢女性の単独世帯は、収入は男性のそれに比べ少ない層となっており、日本の貧困層の相当な部分を占めています。
公的な支援も行われ、地域での支え合いも行われていますが、まだ十分とはいえません。
単独女性世帯では、単独男性世帯に比べると70%ほどの収入となっています。

未婚率の推移
  女性(25-29歳) 男性(30-34歳)
1970年 18.1% 11.7%
1985年 30.6% 28.1%
2000年 54.0% 42.9%

国勢調査報告(総務省統計局)

一方、男性女性を問わず晩婚化が進んでいます。
女性の場合は、1970年に25歳から29歳までの人の未婚率は18.1%でしたが、2000年には54.0%となっています。

この理由としては、以下のようなことがあげられています。

  1. 若い女性の就労による経済的安定による独身生活の気安さ
  2. 10年に渉る不況の影響で、安定していない職業の若い男性が増えたこと
  3. 安心して子どもを生み育てられる経済的インセンテイヴの不足
  4. フレキシブルな労働条件や保育所の整備などが遅れていること
雇用者世帯の共働き世帯数の推移 単位:万世帯
  雇用者の共働き世帯 男性雇用者と無職の妻からなる世帯
1980年 614(35.5%) 1,114(64.5%)
2000年 942(50.7%) 916(49.3%)
2005年 988(53.4%) 863(46.6%)

労働力調査(総務省統計局)

1980年では共働き世帯は約35%でしたが、2005年の統計では50%をこえています。
これはすべての年代の雇用者についての統計ですから、若い人の世帯層に限ると共働きは当然のこととなっています。

<結び>
私は日本の女性に対して以下のことを期待しております。
特に若い女性には、スリム願望は食事のバランスと運動で果たすこと、そして自己の能力開発に努めると同時に、家庭を持つことの意義を再確認していただきたい。
また母親である女性に対しては家庭でのしつけ、教育の主導者の役割を認識し子女を心身ともに健全に育てること。
女性全体に対しては生活習慣病(癌、心疾患、脳卒中、糖尿病など)の予防と介護が必要になることを防ぐ「介護予防」に努めること。

また、国、社会、企業に期待することは以下の点です。

  1. 国、社会、企業は女性の就労機会を更に増やし、非正規雇用者の所得を上げ、正規雇用者化に努める。
  2. 国、社会、企業は結婚、出産、育児がしやすい制度、環境を整える。
  3. 国、社会、企業は女性の社会進出の機会を増やす。
  4. 所得の男女格差を縮小する。

以上ですが、最も重要なことは女性自身の自覚、努力であると思います。
長い間ご清聴をありがとうございました。

Copyright © International Longevity Center Japan All rights reserved.